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海外で暮らすための健康管理額(8)第6章 重病人の搬送
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海外で暮らすための健康管理額(8)
大利昌久
前 東京大学医科学研究所感染症内科
現 長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
海外邦人医療基金 (顧問)
出典:「神奈川県医師会」(2001年10月号より)
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第6章 重病人の搬送
前章、表17のNo.1男性25歳、ナイロビ(ケニア)からロンドン(英国)に搬送した記録を紹介する。筆者が、在ケニア日本国大使館の医務官時代の出来事である。外務省の仕事の中に「邦人保護」の役割があり、事故の一部始終が、逐一外務省本省に打電される。生々しいやり取りがお分かりいただけるだろう。プライバシーに関わるもの以外は、すべて電文の通り。なお、※印は筆者が分かりやすく追記した。
第1報 I氏の交通事故(※事故発生状況)
2月19日夜10時頃、ケニア在留邦人I氏(25歳)が、ナイロビ市内にて無灯火の暴走車に激突され、目下当市ケニヤッタ病院に意識不明状態にて収容されていることが判明した。
同事故の通報は、I氏の事故直前に同じく被害を受けたケニア人Aと称する者が、当館に連絡を寄越したものであるが、同人も突然の受難のため車両番号・形式等確認できなかった。
現在、当館大利医務官が、前記病院に赴きI氏の容態等診察中なるも、被害状況等判明次第追電する。
第2報 ※交通事故被害
20日、当館大利医務官がケニヤッタ病院に赴きI氏を診断した結果、所見次の通り。
@意識不明の状態が事故発生以来続き、20日午後3時現在痛覚に対する反応もなく、本人の名前を呼ぶ声に対しても反応なし。
A左バビンスキー反応がみられ、同時に左上肢の病的反射が認められるが、左右の瞳孔反射正常。左右差なし。光反射反応あり。
B外傷は、左前額部擦過傷、左下肢複雑骨折が認められるが、脳内出血の疑いがある。
C主治医と相談の結果、脳血管撮影後、収容先のケニヤッタ病院から設備の良いナイロビ病院に転送し、引続き脳神経外科専門医と相談する予定。
D全身状態今のところ良好。血圧正常だが、頻脈(120)。その後の経過については追電する。
第3報 ※ロンドンへの搬送予定
I氏の治療については、当地ナイロビにおいては困難であるため、当館大利医務官付添いのもとに、21日ロンドン向け急遽移送することとした。よってケニアへ来る予定の同人関係者にはロンドンにて待機するようご連絡願いたい。
出発フライト便については目下エージェントに手続き中であり、決定次第追電する。ロンドンに転電した。
第4報 ※精密検査の結果
現在、当館大利医務官は、当地ナイロビ病院にて主治医と相談したところ、先の診断で未発見の異常が認められたので、次の通り御報告する。
@事故直後収容されたケニヤッタ病院で行った造影撮影の際、頭部内に異常が認められないにもかかわらず、意識不明のままなので診断に苦しんでおり、英国に移送手続を考慮中である。
A本日、当地最良の施設を有するナイロビ病院に転送、前述の検査を再び実施したところ、左側頭部の頭蓋骨骨折を発見、この診断により、今しばらく様子を見、当病院にて処置を行うことになるかもしれない。この決定は23日(月)午後4時半に、主治医と大利医務官の間で行われる。
Bケニアに来る予定の関係者にはロンドン待機方願ったが、希望によりナイロビに来る際は入国査証手続きのため官員及び関係者を待機させる。ロンドンに転出した。
第5報 ※フライト便
I氏は当館大利医務官及び家族付添いの上、24日移送することになったので、ヒースロー空港でも受入れ及び脳神経外科の入院等に関する諸手続き準備方お願いする。
なお、K大学H教授より依頼もあり、病院名決定次第、御回電願いたい。大臣に転電した。
第6報 ※入院先情報
I氏の受入病院は、ITALIAN HOSPITAL(国営病院)。同病院には英国航空手配の救急車で移送、入院させる。なお、患者が英国人でないため、治療費等は自己負担となり、また病院の保証金として5,000ポンド、救急車代60ポンドが必要なので、家族に連絡願いたい。
家族等の来英について、受入れ準備い必要があるので、宿舎留保の必要性及び来英日程につき念の為、回電願いたい。(空港には当館K書記官及びN理事官を待機させる。)大臣に転電した。
第7報 ※医務官出張の件
23日午前8時、大利医務官と主治医との相談の結果I氏を下記日程にてロンドンに移送の上、精密検査を行うことに決定した。
ついては大利医務官のロンドンまでの看護移送が必要であるにつき、同官の出張許可願いたく、結果折り返し御回電願いたい。
記
24日 0:30 ナイロビ発
同日 6:05 ロンドン着
医務官の帰任日程については追電する。ロンドンに転電した。
※当時、酸素ボンベの準備が間に合わず、機内環境の脳への悪影響、途中での病状悪化の可能性もあったが、このままでは生命にかかわると判断。強硬手段に出た。一般客席6席をベッド代わりにし、筆者と外務省関係者、病人、付添者の5人で搬送した。英国航空の全面協力を得、空港内で意識不明の病人及び筆者は簡単な審査で入国。空港内待機中の救急車に同乗し、ITALIAN HOSPITALに向かった。
第8報 ※ロンドンの病院に入院
I氏は、24日朝7:00、ITALIAN HOSPITALに入院。病院側は、直ちに頭蓋骨及び全身の精密検査(CTスキャン)を実施することとなった。
なお、当方の依頼により、OXFORD所在のJ医大脳外科医師A氏(日本人)が同病院において本件に協力しているので申し添える。ケニアに転電した。
第9報 ※精密検査の報告
I氏は24日、精密検査(CTスキャン)の結果、左硬膜外血腫が発見され(ナイロビ病院では未発見)、直ちに血腫摘出手術が実施された。(手術執行者は、DR..THOMAS)
手術の結果、左血腫の摘出に成功するも、右側頭部の挫滅も発見された。翌25日は、以前として意識障害が持続した。なお、I氏の病状に関する大利医務官とDR..THOMASとのインタビューは以下の通り。
@全身状態極めて良好
血圧110/60.脈拍60〜70。体温36.7〜36.2℃。排尿あり。
A意識の回復は個人差があるも、2週間以内には明瞭になると思われる。
B右足の骨折についえは、意識回復次第、整形外科専門医と相談の上、手術する。
26日、午前11時現在、意識障害は以前として持続しているものの、大声で名前を呼ぶと少し目を開ける状態であり、経過は良好と思われる。
大利医務官はI氏の家族の依頼もあり、後1〜2日滞英の予定。ケニアに転電した。
第10報 ※病状について
DR..THOMASによれば、I氏の意識回復が良好の状態であることにより、右足の精密検査及び手術が可能であると判断し、4日同人をWATFORD ROAD, HARROW.LONDON所在の NORTH WICK PARK HOSPITAL(整形外科病院)に転院させ、6日手術を行い、1〜2週間後、ITALIAN HOSPITALに帰院に予定である旨。本件I氏の父及びK大学H教授に右通報願いたい。ケニアに転電した。
第11報 ※入院費について
I氏のITALIAN HOSPITAL入院に関し、同院に対する保証金5,000ポンドをT銀行ロンドン支店に送金方、お取り計らい願いたい。ケニアに転電した。
第12報 ※ロンドンより日本に
I氏は、いずれ日本航空(寝台装置:成田経由伊丹行)にて、母及びO氏の付添いで帰国する。なおI氏の母は、I氏が良好な状態で帰国し得ることは、ひとえ在ロンドン総領事館及び在ケニア大使館の行届いたご配慮、特に在ケニア大使館大利医務官の御苦労に感謝する旨の謝意の表明があった。ケニアに転電した。
大利医務官は3月1日ロンドン発英国航空にて帰任する。大臣に転電した。
この電文は実は第20報あり、そのうち12報を公表した。この内容から、重病人の緊急搬送に多くの問題が発生することが、お分かり頂けると思う。
代表医:大利 昌久/医療サービススタッフ:サンタンブロージュ
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