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海外で暮らすための健康管理学(2)

大利昌久
前 東京大学医科学研究所感染症内科
現 長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
海外邦人医療基金 (顧問)
出典:「神奈川県医師会」(2001年2月号より)


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健康診断の評価
 健康診断の結果、全く問題がない人はむしろ少ない。そのため、派遣にかかわる健康診断の評価が問題となる。
1)派遣不可
派遣不可のなるのは次の点である。
海外派遣中に病気が悪化する可能性が高い病気、例えば心臓病、肝臓病、難治性の病気がある場合は不可。勿論、活動性の病気がある場合は不可。
海外でも服用薬が必要で、服用を中止すると悪化する可能性のある病気の場合、任地で内服薬を入手出来ない地域への派遣は不可である。
2)派遣可
海外勤務でも支障のない病気。医療施設が日本並で、問題のない地域への派遣。表3に海外医療の専門家、阪上皖庸先生(松下電器健康保険組合松下健康管理センター海外医療対策室長) が採用している派遣不可基準を示した。彼が私の海外医療相談用のホームページに紹介してくれた資料である。渡航先によって、その判断基準が異なる点に注意。
軽い病気があっても緊急医療システムが完備しており、スムーズに二次医療が展開されている地域への派遣は可とする。

表3 海外渡航不可基準
病名
先進国
途上国・共産圏
高血圧
1. 心電図異常、腎障害などの
 臓器障害を伴う場合
1. 同左
2. 滞在地医療機関を利用しにくい場合
胃・十二
指腸潰瘍
1. 再発性、難治性
1. 同左
2. 薬物治療ないし予防投薬が必要な場合
心臓病
1. 薬物治療が必要な場合
2. 心臓発作のおそれがある場合
1. 薬物治療ないし予防投薬が必要な場合
2. 同左
糖尿病
1. インシュリン注射が必要な場合
2. 合併症がある場合
1. インシュリン注射または
 血糖降下剤内服が必要な場合
肝臓病
1. 慢性活動型肝炎および肝硬変
1. 肝機能異常がある場合(脂肪肝を除く)
高尿
酸血症
1. 腎障害がある場合
1. 薬物治療が必要な場合
2. 通風歴、腎障害、尿路結石の
 いずれかがある場合
1. 過去に痛みがあった場合
喘息 1. 薬物治療が必要な場合
1. 同左
2. 発作のおそれがある場合

阪上皖庸先生資料より
3)健康診断
「産業医」や「かかりつけ医」は、健康診断書を英文で作成し、可能ならば検査資料も詳細に記しておいたほうが良い。なお、生科学などの検査値は、正常値も記しておくことが大切。又、二次検査まで行った派遣者については、参考資料として、その結果及び治療方針などを記すことが重要。必要な服薬指導があれば、それも記した方が良い。なお、乳幼児、学齢期の子供さんを同伴する家族については、英語で母子手帳を発行して下さい。母親についても同様。

第2章 予防接種
 海外で暮らすためには、必要な予防接種をすべて受ける必要がある。同伴家族も同じ。任地での予防接種の内容と方法が違うため、可能な限り日本で受けること。余裕がない場合は、任国のスケジュールに合わせること。

1)予防接種の内外事情
 先進国と発展途上国での予防接種の基本的な考え方が違う。
先進国では、EPI(予防接種拡大接種計画)に準じているうえに、各国独自の予防接種政策をたてている。
発展途上国では、WHO(世界保健機関)や、UNICEF(国連児童基金)の協力によるEPIを中心に予防接種が実施されてる。乳児に対し、「BCG、ポリオ、三種混合、麻痺」を接種している。
グローバルな問題としては、世界中でCVI(子供ワクチン計画)が推奨されている。
日本の予防接種の方式が最善という訳ではない。国際的に比較すると、かなり独自なもの。しかも、必要な予防接種を網羅していないことを理解しておいた方が良い。
日本では、1948年に制定された予防接種法が、1994年に抜本改正された。この改正により「義務接種」と呼ばれていた予防接種が、「勧奨接種」(努力義務接種)と変更された。新法では、個人の健康保持増進を重視するのが目的とされている。
 この対象になるものは、「ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、麻痺、風疹、日本脳炎、結核」の8種で、「定期接種」として定められている。この「定期接種」の接種時期は、表4の通りである。これはあくまでも、日本国内にいるときのスケジュールとなる。

表4 定期予防接種の種類と接種対象年齢、回数、間隔
予防接種法 (1995年4月1日より実施)
区分
接種対象年齢
回数 間隔
DPT1期
生後
3〜90

ヵ月
★初回接種(IE制度の1期)
 標準は3〜12ヵ月
★追加接種(IE制度の2期)
 初回接種完了後6ヵ月以上
 の間隔をおいて接種
 標準は初回接種終了後12〜18ヵ月
3回
1回
3〜6週
DT2期 IE制度の3期で、11〜12歳
(標準は小学校6年生)
1回
ポリオ 生後 3〜90ヵ月(標準は3〜18月) 2回 6週間以上
麻 痺 生後 12〜90ヵ月(標準は12〜24月) 1回
風 疹
生後 12〜90ヵ月(標準は12〜36月)
12〜15歳(標準は中学生)男女とも
1回
1回
日本脳炎
第1期
生後
6〜90ヵ月
★初回接種:標準は3歳
★追加接種:初回接種後、
 おおむね1年経過後(標準は4歳)
第2期 9〜12歳(標準は小学校4年生)
第3期 14〜15歳(標準は中学校2年生)
2回
1回
1回
1回
1〜4週
DPT:沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン
DP :ジフテリア破傷風混合トキゾイド
※中学校2年生でも14歳に達しないものは対象となりません。
 14〜15歳ならば中学校3年生でも対象になります。

結核予防接種 (1995年4月1日より実施)
区分
接種対象者(ツ反陰性は発赤長径9mm以下)
BCG 0〜4歳のツ反陰性者
小学校1年生のツ反陰性者
小学校2年生のツ反陰性者(小学校1年でツ反陰性のもののみ)
中学校1年ののツ反陰性者
中学校2年生のツ反陰性者(中学校1年でツ反陰性のもののみ)
小学校1年生と中学校1年のツ反は結核予防接種法による定期の健康診断によ
る義務接種 /その他のツ反と、BCGはすべて勧奨接種
大村三生夫先生資料より 
(海外医療、1995年、No16)

「任意接種」と呼ばれるのは、「インフルエンザ、ムンプス、水痘、A型肝炎、B型肝炎、肺炎球菌感染症」、それに海外渡航者に必要な、「黄熱、狂犬病」などがある。なお、日本では許可されていない、「ヘモフイルインフルエンザ菌B型」も必要な地域もある。

2)予防接種の内容
大人に対する予防接種
 「破傷風、ポリオ、A型、B型肝炎、日本脳炎」は、必須。地域によって「狂犬病、BCG、腸チフス、黄熱」の必要性を、検討しなければならない。
小児に対する予防接種
 1995年4月から、新しい予防接種法が定められている。これに伴い、「三種混合、ポリオ、麻痺、風疹、日本脳炎、BCG」は必須。その他、「おたふくかぜ、水痘」などの追加も必要である。


3)予防接種スケジュール
 実際にどのように実施するかポイントを記した。
(1)予防接種時の注意は何か?
複数の予防接種を接種する場合は6ヵ月位の余裕が必要。
生ワクチン(生きているウィルスまたはバクテリアを弱毒化したもの)を何種類か接種する場合はそれぞれ1ヵ月以上の間隔をあけるのが鉄則。
同じに接種可能なワクチンもあるが、どれも注射部位の腫れと痛み、発熱、だるさなどが出る可能性がある。
予防接種の接種日は上のような反応を抑えるためにも夜更かし、飲酒などをひかえるように指導する。
参考資料
1)海外医療:海外赴任者のための予防接種、1995年No6(海外邦人医療基金)
2)海外勤務と健康、海外赴任と成人病、1997年第6号(海外勤務健康管理センター)


代表医:大利 昌久/医療サービススタッフ:サンタンブロージュ


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