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海外で暮らすための健康管理学(1)

大利昌久
前 東京大学医科学研究所感染症内科
現 長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
海外邦人医療基金 (顧問)
出典:「神奈川県医師会」(2001年1月号より)


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はじめに
 前シリーズで、海外医療を担う側の実情を「知られざる国内事情の舞台裏」と題して述べた。日本では今だに海外医療の専門家は、欧米並みの市民権を得ていない。しかし、時代の流れもあり、海外医療を専門に展開する可能性も高まっている。
 本章では、海外で健康に暮らすための健康管理の在り方を「産業医」や「かかりつけ医」の立場で述べている。
 医療問題の概略
 ここでは海外渡航者の中でも「産業医」が関ることの多い海外派遣者に絞って解説した。特に、以下の医療問題が重要となる。

1・健康診断
 派遣前の健康診断は重要である。特に「生活習慣病」のある人に対しては、派遣可否も含め、医学的な判断をしなければならない。海外不適応からくる精神の問題もあり、医師の経験が問われるところである。家族同伴の場合、家族ぐるみの健康診断が必要となる。

2・予防接種の準備
 早期に必要な予防接種を済ませることがポイント。しかし、予防接種の種類、接種間隔など、医師側も戸惑うことが多く、受診者は混乱する。海外で普通に実施されている予防接種が、日本で行われていなかったり、同時に多種の予防接種を日本が実施していないこともあり、なかなか指導する側も難しい問題を抱えている。予防接種に関しては、複雑で難しい問題が多いので、先進国、途上国、日本の実情に分けて解説する。

3・感染症対策
 重点的に感染症対策を立てた方が良い。以下がポイント。
1)熱帯、亜熱帯地域に派遣する場合は、「熱帯病」の知識を深める教育をすること。特にマラリアの流行地での予防内服、罹病時の対応について教育する。
2)密かに広がる性感染症、特にエイズ、B型、C型肝炎について教育する。
3)ボーダレスといわれる「新興感染症」「再興感染症」の情報を与えておくこと。
4)帰国後、持ち帰る「輸入感染症」に対する心構えを説くこと
4・現地での医療問題

1)現地での発病に備え、「ホームドクター」の開拓を進める。
2)不慮の事故に備え、「緊急医療システム」の存在を教え、実際発生した場合の医療対応策を解説すること。
3)現地からでも日本国内の「医療情報システム」が、FAX、TEL、メールなどで利用可能なので、その存在も教えておくこと。
5・帰国後の問題

1)帰国しても健康診断を受けるようにすすめる。
2)帰国して発病する病気もあるので注意を与える。特にマラリアなど日本にない病気の発見が遅れがちなので、その対応なども解説する。

第1章 派遣前の準備
(1)派遣者の人選
 過去に繰り返した、多くの苦い経験から、海外派遣者を「特別に人選」することが必要である。特に、海外での生活に適応能力のない人は、はじめから派遣対象にしないこと。家族を同伴する場合が多くなっているので、特に必要。
 同伴家族のいる場合の人選にあたっては、派遣先に、日本人学校、及びそれに準ずる補習校の有無なども条件とすべき時代に入っている。
(2)健康診断
 例え短期でも、健康診断は必要である。少なくとも派遣3ヵ月前に、健康診断を実施した方が良い。健康な人は問題ないが、なんらかの病気が疑われた場合、二次検査に必要な時間的余裕を確保しておくためである。
 なお、「生活習慣病」のある人は、経時的な検査データを持参すると良いし、心電図に異常がある者は心電図のコピーを持参すると良い。又、当然の事ながら、服用薬の内容を英文にでも直してもらうこと。
 「労働省」では労働安全衛生規則を訂正して、従業員を海外に6ヵ月以上派遣するときや、海外に6ヵ月以上派遣した従業員が帰国したとき、健康診断を行うように事業主に義務付けた。この規則は1989年10月から実施され、表1の検査を行うこととされている。

表1 海外派遣労働者の健康診断
1. 既往歴及び業務歴の調査
2. 自覚症状及び他覚症状の検査
3. 身長・体重・視力及び聴力の検査
4. 胸部エックス線検査及びかくたん検査
5. 血圧の測定
6. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
7. 貧血検査(血色素量・赤血球数)
8.肝機能検査(GOT・GTP・γ-GTP)
9. 血中脂質検査(総コレステロール・トリグリセライド)
10. 心電図検査(医師が必要と認める場合に行う項目)
11. 胸部画像検査(胃部エックス線検査・胸部超音波検査)
12. 血糖検査
13. 血液中の尿酸の量の検査
14. B型肝炎ウィルス抗体検査
15. ABO式及びRh式の血液型検査(派遣時に限る)
16. 糞便塗抹検査(帰国時に限る)
   
・ 身長の検査及びかくたん検査は、医師が必要でないと認めるときは省略できる。この場合の省略基準は、一般定期健康診断の場合に同じ
・ 労働安全衛生規則第43条(雇入時健診)、第44条(定期健診)、第45条(特定業務従事者の健診)または労働安全衛生法第66条第2項(特殊健診)の健康診断を受けた者については、当該健康診断実施の日から6月間は、同一の検査項目を省略することができる。
   
 最近では、中高年者の派遣も増えているので胃癌、大腸癌、前立腺癌、女性では乳癌のチェックも勧めた方が良い。任地で癌が発見される人も増えているので必要である。なお、歯、目のトラブルも多いので健診を済ませておくこと。また、不慮の事故に備え、血液型の記録も必要。
 健康診断の様式を規定する必要はないが、海外派遣労働者健康診断の検査項目を内容として含めておくことは法的に必要である。勿論、労働省の様式第5号「健康診断書」があるので、それを利用すれば無難。(表2)

表2 海外派遣労働者健康診断個人票(派遣前・帰国後)

考資料
1)海外で暮らすための健康管理学:大利昌久、1984年(毎日新聞)
2)海外派遣労働者の健康管理学、1993年(産業医学振興財団)
3)海外健康管理ハンドブック:長谷川謹也、大利昌久、宗像恒次、1994年(海外職業訓練協会)
4)海外赴任者のための健康管理ガイドブック:西川哲夫編集、1997年(労働福祉事業団、海外勤務管理センター)


代表医:大利 昌久/医療サービススタッフ:サンタンブロージュ


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