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知られざる国内事情の舞台裏(5)

大利昌久
前 東京大学医科学研究所感染症内科
現 長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
海外邦人医療基金 (顧問)
出典:「神奈川県医師会」(2000年7月号より)


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大陸をまたぐ研究(その2)

2)アンケートの結果
1、疾病予防対策について
 赴任前の健康診断について本人の受診率はラゴス91%、カイロ96%、アルジェ82%でかなりの好成績。家族の健康診断率は、ラゴス44%、カイロ62%、アルジェ45%で、いずれも本人の受診率におよばなかった。赴任前健康診断は、本人および家族も含めて徹底的に実施するのが望ましい。英文の診断書を持参して赴任したした人は、ラゴス16%、カイロ21%、アルジェ27%で非常に少
ない。この面での検討も必要である。
 多くの邦人が赴任前に何らかのオリエンテーションを受けていたが、それは企業単位などの組織的なものでなく、個人的に情報を得ていることが多かった。
 予防接種の受診率は、ラゴスが非常に高く88%を示した。特にラゴスなどの黄熱流行地域では「黄熱」の予防接種が義務づけられているため、その分だけ高率になったと思われる。予防接種の内容は、「A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、麻疹、3種、2種混合、日本脳炎、ポリオ、破傷風」などがなされていた。アフリカに赴任する大人の場合、「破傷風」は必須と思われるが、以外に低率であった。
 小児の場合、ポリオや3種あるいは2種混合が中途のまま出国せざるを得ない例が多かった。この場合、現地で接種を受けることに警戒心を抱いている邦人が多かった。実際、現地医療機関での接種を嫌って、パリ、ロンドン、フランクフルトなどに出国し、そこで受けている件数が多い。その理由として、現地での「注射器の汚染」の問題、「ワクチン自身の管理」の問題などの不安要素はたくさんあり、これをどう指摘するかも今後の課題の一つである。
 邦人の多くが外務省、民間、所属企業の「巡回医療相談」を利用していた。巡回医療相談は、ほとんどの場合、検尿、心電図など簡単なものであるにもかかわらず利用度は高いと判断してよい。「日本語で話が出来、日本の習慣にあった医療会話ができる」ことが、受診の最大の原因であろう。
 生活環境について、食料品、飲料水、気候風土、社会事情など問題ありとする意見が圧倒的に高かった。

2、発病時の対応について
 カイロでの入院例が多かったが、この事情はラゴスやアルジェに比べると、症例によっては、入院して治療をゆだねる現地医療機関がある事を示すといえる。
 分娩について、ラゴス、アルジェでは、安心して出産できるとする者は皆無で、帰国して出産できるとする者は皆無で、帰国して出産する例がほとんどであった。
 救急時の対応について、3都市とも、日本にいる時より不安と答え、また過去にヨーロッパないしは本邦に移送した例が多かった。また、ラゴス、アルジェでは、過去、当地の病院で十分対応しえたと答えた者は皆無だった。

3、先進国の医療機関の利用について
 3都市とも、多くの邦人がヨーロッパ、特にイギリス、フランス、西ドイツを利用していた。イギリスではロンドンのジャパンクリニック、フランスではパリのアメリカ病院が頻繁に利用されていた。
 国別にみると、英語圏のラゴス、カイロはロンドンに、仏語圏のアルジェはパリの医療機関を利用していると考えてよい。日本を除くと、その他、西ドイツ、ブラジル、スペインなどが利用されていた。しかし、利用した邦人の中には、これら先進国の医療機関でも不満足であるという意見が示された。それを要約すると、「・言葉の傷害がある。・医薬分業、検査分業、レントゲン分業であり、あちこちまわらなければならない。・費用が高額である。・日本のような人間ドック形式の便利なセンターはない。」 などであった。

4、現地の医療全般について
意見有りとする答えが圧倒的に多かった。それは現地での医療不安を象徴としていると考えてよい。この中で、近くの先進諸国で「指定病院が必要」と答えたものや、「邦人医師による診療所を設置して欲しい」とする意見が多かった。また日常的には、「巡回医師団の巡回頻度の増加」を希望する者が多かった。

3)各国の情勢
1、ナイジェリア
ナイジェリア日本大使館の鈴木医務官は、在任中の約2年間に、「熱性疾患、作業中の事故、胃潰瘍穿孔による吐血、クモ膜下出血、急性白血病、交通事故」など7件の死亡例を経験し、また、表4のように、本邦ないしヨーロッパに移送した患者は、マラリア、急性肝炎、胃潰瘍、急性胃腸炎、自然気胸、糖尿病悪化、周期性四肢麻痺、外傷」など」19件であったという。緊急移送の背景には、ナイジェリアの現地医療機関が二次、三次の高度な医療は言うまでもなく、一次医療ですら利用できないという問題がある。特に同医務官は、「当国の医療施設は、設備が極めて劣悪で医師の能力も極めて低いため、信頼して邦人患者をまかせることができないと判断したため、全く現地医療機関を紹介しなかった」という。アメリカ大使館の医務官も同様な立場に立っており、医務官室に一時収容のための仮ベットを設け、緊急医療器具(除細動器、酸素吸入器など)の装備、スタッフの充実(医務官以外に看護婦、秘書、受付)医務官不在時の代診医としてEC諸国の医務官の確保などを系統的に組織していた。また緊急時の輸血については極めて深刻な扱いをしており、特にEC諸国の提案による「白人用の輸血銀行」の確立を呼びかけていた。これはAIDSをはじめ、マラリア、肝炎、梅毒などの汚染を防ぐための対策と思われる。

表4 ナイジェリアより日本ないしヨーロッパに移送した患者
疾  病  名
移送先
移送航空機
 感 染 症
1 マラリア
2 急性肝炎 (2件)
3 アルボウイルス感染症
4 不明熱

 消化器系
1 胃潰瘍 (吐血)
2 胃潰瘍 (腹痛)
3 急性腹症
4 急性虫垂炎 (2件)

 外 科 系
1 大腿骨骨折
2 腰椎骨折
3 骨盤骨折
4 肋骨骨折
5 椎間板ヘルニア

 そ の 他
1 周期制四肢麻痺
2 糖尿病 (悪化)
3 自然気胸
日  本
日  本
日  本
日  本


ロンドン
日  本
パ  リ
ロンドン


パ  リ
日  本
日  本
日  本
日  本


日  本
日  本
パ  リ

定 機





A.A.
定 機

A.A.


A.A.
定 機





定 機

A.A.

註: 定 機 = (定期旅客機)
   A.A. = (AIR AMBULANCE)

当国での緊急医療の対象としては、交通事故による重症者の発生がリスクとしては高い印象をえた。この原因としては、「@でたらめの交通法則、A設備不良車の氾濫、B横暴な運転、C緊急医療の不備、D医療水準の低さ」が考えられるが、邦人がもし事故にあった場合も、これらのリスクをまぬがれることはできないだろう。


代表医:大利 昌久/医療サービススタッフ:サンタンブロージュ


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