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知られざる国内事情の舞台裏(3)

大利昌久
前 東京大学医科学研究所感染症内科
現 長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
海外邦人医療基金 (顧問)
出典:「神奈川県医師会」(2000年5月号より)


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■巡回医師団
 外務省と国際医療団、労働福祉事業団と海外邦人医療基金では共同して、年間10チーム以上の巡回医師団を世界中に派遣し、在留邦人のための健康相談を無料で実施している。有料では、熱帯医学協会も巡回医師団を派遣中。日本の有力企業は独自の健康診断システムを展開している。
 巡回地によっては、海外の病院と提携し、現地病院の機能を活用し、健康診断を実施。受診希望者は、事前にレントゲン、血液検査を受け、その結果を巡回医師団に相談するシステムをとっている。日本語で直接相談可能な点が日本人会に好評を博している。
 労働福祉事業団と海外邦人医療基金では、実験的に歯科医師、薬剤師を巡回医師団に組み入れたこともあり、好成績を得た。
今後もっと機能的な巡回医師団を派遣出来るよう提案中である。

■海外邦人医療基金とその戦略
 財界の強い要望を受け、「海外派遣者の保健、医療問題解決推進に関する重点施策」が厚生省を中心に建議されたのが、1978年のことである。その後、海外医療を担う目的で、「海外邦人医療促進協議会」が発生し、1984年、外務、厚生、労働の3省共管の公益法人として、「海外邦人医療基金」が設立された。初代会長は、財界人の永田敬生氏で(元日立造船株式会社会長、1999年没)外務省にいた私も、いろいろとお手伝いをした。その縁があって、開業の身でありながら、今も基金の運営委員を委託されている。
 設立の翌年1985年には、シンガポール日本人会診療所を立ち上げ基金第1号の海外医療援助の拠点となり、東南アジアに在留する日本人の医療不安を解消するのに役だった。その後、ブラジル(マナオス)、クエイト、フィリピン(マニラ)、インドネシア(ジャカルタ)と相次いで日本人会診療所を設立、最近では、1997年に中国大連市中心医院に「日本人専用のクリニック」
を開設。運営は軌道に乗っている。
 中国で働く日本人が増えるにつれ、各地で医療問題が持ち上がった。この情報をもとに、中国にも日本人会クリニックの設立を提案。当初の有識者は、「中国は近いのでなにかあればすぐ日本に帰ればよい」という考えが多かったが、私の提案に機敏に反応したのが企業側だった。各都市の日本人会から医療支援の要望が相次いだものの、上海市、北京市での交渉は日本の医師免許が認められないという問題で未解決。しかし、中国東北部の表玄関、大連市ではスムーズに交渉が進み、中国大陸初の「日本人専用クリニック」の開設となった。1997年の開院式には、現会長歌田勝弘氏(元味の素株式会社社長)、西村佐久間専務理事のお伴で私も主席した。
 中国の要人をはじめ大連市長も祝辞を述べられ、?歳まで中国東北部に住んでいた私は 、「いつか日本と中国の掛け橋になりたい」と思っていたので、感無量であった。今でも「熱烈歓迎」。中国人楽団の盛大なタイコの音が耳に残っている。
 海外邦人医療基金のもう一つの戦略は「巡回医師団」を世界各地に派遣することである。表3に事業活動を示した。毎年12〜14チームを編成。医師2人、看護婦1人、事務スタッフ1人の4人体制でまわっている。労働福祉事業団との共同でおこなっているので、医師団の多くは、労災病院の先生が多い。医師、看護婦がペアで巡回するため、子女を同伴する在留法人の良き相談相手になっている。訪問都市数は、1999年に71都市に増えている。活動内容は、一般の健康相談が中心だが、メンタルヘルスの相談にも力をいれている。
 定期刊行物として「海外医療」という雑誌を年2回発行。その他に、機関誌「ニュースレター」を毎月発行海外医療の最新情報が平易に解説され、その情報量も多いので大いに役立っている。
 最近の海外医療戦略の中で、東京大学小児科グループによる「医療相談事業」があり、需要が高まりつつある。海外から直接相談出来るので便利。これまでに、インド、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、中国、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア、インドネシア、マレーシアからの相談があった。将来、欧州、北米、大洋州からの相談も受託の方針である。なお、小児医療電子掲示板(ホームページ)を設け好評をえている。
 その他、大きな特徴としては、「海外の国別、地域別の医療事業調査」を実施している。従来、中国、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピンを重点的に調査してきたが、今年2000年から、多くの法人企業が活躍している韓国、台湾の医療事情調査を実施予定である。

表3 海外巡回健康相談
受信者数
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
チーム数
12
12
12
12
12
14
14
14
14
訪問都市数
51
57
52
52
66
68
74
70
71
受信者数
4,754
5,423
6,657
4,715
5,407
5,168
4,912
5,355
集計中

■海外医療機関情報
「最良」で「日本人が受診可能な医療機関」を如何に選定するかが、在留邦人の大きな課題になっている。このような海外医療機関の「評価」をおこなうのも、私たち専門家の仕事の1つである。
1)世界医療事情  1986年、外務省領事館の資料のもとに、私なりにまとめたのが「世界医療情報」(海外邦人医療基金出版)である。アジア、オセアニア、中近東、中南米など61カ国、92都市、140の医療機関を紹介した。
その国の「感染症」及び「在留邦人のかかりやすい病気」は、WHO及び外務省医務官の最新情報を参考にした。一番苦労したのが「医療機関」「医薬品入手難易度」などだった。
古い資料は使えないので、外務省の巡回医師団の報告書に目を通し、海外邦人医療基金の資料を取り入れてまとめてみた。私自身が調査したアフリカ諸国、中近東諸国の資料も加えてある。
この種の出版物としては、今でも貴重で、歴史的な「珍本」として評価されている。問い合わせが絶えないが、残念ながら絶版。外務省医務官の数も増えており、海外の医療情報の入手が容易になったので、いずれ再版したいと考えている。
最近、海外邦人医療基金がまとめた「海外41都市の救急情報」(1998年No21海外医療)は、最新の情報が含まれていて有用である。


代表医:大利 昌久/医療サービススタッフ:サンタンブロージュ


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